マタニティ(妊娠中/産後)
2018.06.05
【教えて助産師さん】「マタニティブルーズ」「産後うつ」っていったい何ですか?
マタニティお役立ちコラム【【教えて助産師さん】「マタニティブルーズ」「産後うつ」っていったい何ですか?】ナチュラルサイエンスのfor Mama & Kids Smileでは、ベビーやキッズ・マタニティ・美容や健康に関する役立つコラムを皆さまにお届けしています。
妊娠中~産後にかけて、「産後うつ」や「マタニティブルーズ」という言葉を一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。わが子の誕生を心待ちにしている人には想像もつかないかもしれませんが、実は、産後は精神的につらくなってしまう方がとても多いのです。
そこで今回は、助産師 代田佳恵先生監修のもと、「マタニティブルーズ」と「産後うつ」についてご紹介します。いざというときのために、妊娠中~産後の心の変化について知っておきましょう。
産後の「マタニティブルーズ」と「産後うつ」は別物です
産後のメンタル面での変化として、大きく「マタニティブルーズ」と「産後うつ」の2つが挙げられます。「マタニティブルーズって、妊娠中じゃなくて産後に起こるものなの!?」と驚いた方も多いのではないでしょうか。まずは、この2つの違いについて知っておきましょう。
「マタニティブルーズ」は、産後1か月ごろまでに起こる一時的なものです
妊娠中~産後は、“男性なら狂ってしまうほど”と説明する専門家もいるくらいに、ママの体のホルモンバランスが大きく変わります。出産直後の急激なホルモンの変化によっておこるのが、「マタニティブルーズ」。出産~産後1か月ほどの間に起こる、一時的な気分の落ち込みや心の不安定な状態のことを指します。
具体的には、イライラする、わけもなく不安になる、ちょっとしたことで涙が止まらない、悲しい気分になる…などの症状が起こります。ただし、一時的なもので産後1か月ほどを過ぎると自然に落ち着きます。「マタニティブルーズ」は医学的なもの(病気)ではありませんが、これをきっかけに「産後うつ」になることもあるので注意が必要です。
「産後うつ」は、ホルモンの変化によるものではありません
「産後うつ」は、気分が沈み、日常の生活で興味や喜びがなくなるのが、産後うつの中心となる症状です。それに加えて、食欲の低下または増加、不眠又は睡眠過多が見られます。また、疲れやすく気分が減退し、思考力や集中力が減退します。このような症状が2週間以上続く状態を「産後うつ」と呼びます。産後2~3週から6カ月ぐらいの頃に発症することが多く、一般のうつに比べて不安や焦燥感が強く、様々な症状が出て重症化しやすい傾向があります。一時的な現象である「マタニティブルーズ」とは異なる“心の病気”です。
産後うつ病の母親の中には、自分の気持ちを訴える代わりに、赤ちゃんの健康や母乳に関する心配など育児に関した不安を表現することもあります。「赤ちゃんのお世話が面倒で、かわいいと思えない」と感じ、「自分は母親失格」といった表現で、過度の罪悪感をいだくこともあります。さらに悪化すると「母親失格の自分など、この世にいても…」という発想に繋がってしまうこともあります。
気分の落ち込みが激しく、上記のような症状があるときは「産後うつ」かもしれません。悪化させないためにも、早めにメンタルクリニックや精神科を受診することが重要です。どこに行くべきかわからない、なかなか受診する勇気が出ない場合という場合もそのまま放置せず、まずは産院の先生や保健所に早めに相談してください。
ママだけでは、「みんなが上手に“母親”をやっているのに、私だけ…」と受診や相談を躊躇してしまうことが多々あります。ママの不調や変化を感じたら、パパや周囲のご家族が受診をすすめることも大切です。
「産後うつ」の発症率は、約10%。誰がなっても不思議ではありません
厚生労働省の報告によると、「産後うつ疑い」のある人の割合は平成25年で9.0%。平成13年の13.4%から比べると年々減少しているようですが、一般的なうつの発症より高率で5~10人に1人は産後うつになる可能性があるのです。
ママは出産という大きな体のダメージを回復させる間もなく、ホルモンバランスもガタガタな中で、昼夜関係のない育児生活がスタートします。毎日赤ちゃんのために必死にがんばるママは、気づかないうちに心身ともにかなりの疲れを溜めていきます。「産後うつ」は誰に起こっても不思議ではないことを、頭に入れておきましょう。
「子どもがかわいいと思えない」と感じても、決して“母親失格”ではありません
精神面で疲れてしまったママの多くが、「子どもがかわいいと思えないなんて、私は母親失格だ」「私だけうまく育児ができない」という言葉を口にします。でも、決して産後うつや育児ノイローゼになる方が、母親に向いていないなんてことはありません。
初めての育児がうまくいかないのは当然のことです。それなのに、「育児がうまくいかないのは自分のせいだ」と悩んでしまうほど、赤ちゃんとの生活に対して真剣に向き合っているママ。そんなに真面目で頑張り屋さんのママに、母親の素質がない訳がありません。むしろ、食事も睡眠もままならない中でそこまで頑張れるなんて、本当にすごいことなのです。ぜひ、ご自身をほめてあげてください。
SNSやTVの母親像が、すべてではありません
最近はママタレントブームや、個人のSNSも一般的になり、今までよりも「ママの生活って華やかで毎日楽しい!」というイメージが強くなっているのではないでしょうか。
でも、決して育児は楽しいことだけではありません。自分の生活をないがしろにしながら育児をしているのに、何をしても泣き止まないなんてことがあれば、「赤ちゃんってかわいい!」と思えない瞬間があっても不思議なことではないのです。それなのに、「みんな育児を楽しんでいる。どうして、“自分だけ”育児を楽しめないのだろう…」と、悩むママが多くいます。
しかし、あえてSNSで毎日トイレに行くことを公表する人はまずいないように、「今、赤ちゃんをかわいいと思えない」と、あえて発信するママも少ないのではないでしょうか。でも、子育て経験のある人に「育児がつらかったことはありますか?」と聞いたら、ほぼ全員が“YES”と答えるでしょう。
精神的に不安定な時期に、育児を楽しんでいるような人を見ると、つい自分がダメなのではと思い込んでしまいます。でも、TVやSNS上のママも、大切な命を責任持って育てている親なのですから、ずーっと楽しいことだけで生活している訳ではないのです。それを知っておくだけでも、産後思い悩むことは少なくなるのではないでしょうか。
育児中の合言葉は「まあ、いっか!」です
育児中の生活は、もちろん赤ちゃんが中心になります。ママがどんなに家事や育児を頑張ろうとしても、日々の生活は赤ちゃんのゴキゲンや体調次第なのですから、すべて完璧にこなせるはずなどありません。1人で頑張らないこと。保健所などに連絡したら、いろんな行政のサービスを受けられることも多いですよ。勇気を出して相談してみてください!
多少部屋が散らかっていても、1回ゴミ出しを忘れちゃっても、ごはん作らなくても、家事を全然しなくても、赤ちゃんは大丈夫。赤ちゃんの命に関わることよりも、優先すべき家事などありません。
それでも、赤ちゃんの泣き声で参ってしまうこともありますよね。母乳やミルクもあげて、おむつをかえても泣き止まない。どうしたらいいかわからない時もあります。そんな時は、赤ちゃんの安全だけ確保して、少し離れる勇気も必要です。1人になって、別の部屋でお茶を飲んで一息ついてみましょう。
真面目なママほど、理想の母親像とうまくいかない現実のギャップにストレスを感じ、つらくなる方が多いようです。でも、ママは「赤ちゃんを育てていく」という、最重要任務を毎日しっかりこなしています。その頑張りを、まずはご自身がしっかり認めてあげましょう。
パパは「心の面でも」ママに協力を
最近は核家族、共働きの家庭が増え、「イクメン」と呼ばれる育児に積極的なパパも増えてきました。男性も子育てを一緒に頑張っていくことは、とてもすばらしいことです。しかし、その分、「そんな方法でいいの?」「これもした方がいいんじゃない?」とパパに口出しをされ、かえって辛くなってしまうママもが多いのも現実です。
「たまに」の育児ならできることも、毎日連続だとできないことだって、当然あります。そこを理解しないまま、毎日のママの頑張りも認めずに口を出して完璧を求めるようでは、かえってママの負担になってしまいます。
パパもわが子がかわいくて、つい普段のママのやり方に色々言いたくなることもあるかもしれません。でも、まずは、日々育児をがんばっているママに「ありがとう」を伝えてみてください。その一言がオムツ替えよりもお皿洗いよりも、ママにとって一番の理解者で、共感者であること。ママの「心のサポート」も、とても大切なパパの役目であることをぜひ知っておいていただきたいですね。
おわりに
「産後うつ」と聞いたことはあっても、自分は大丈夫と思っている方が多いのではないでしょうか。でも、産後うつは、5~10人に1人が発症する、誰に起こっても不思議ではない心の病気です。
ママ自身が「私は大丈夫でしょ」と思っているくらいですから、パパはまさかパートナーがうつになるなんて、想像もつかなくて当然。ぜひ妊娠中に、「産後はとんでもないホルモンの変化とか色々なことが起こって、精神的に参ってしまう人が多いらしい。」という産後の母親の心と体の変化について知識を得ておくこと。両親学級などにも積極的に参加してください。近くで見ているパートナーが産後ママの変化にいち早く気が付いて、保健所などに連絡してくださることも少なくありません。「産後うつ」に対して、知識があるだけでも、ママは「私だけかも…」と思い悩むことは減らせますし、パパも協力しやすくなります。
監修
代田佳恵(助産師・看護師)
東京都渋谷区を中心に、マタニティ&産後ヨーガ、ベビーマッサージ、母乳相談など、妊娠から卒乳までのケアなどを行っている。
●参考
妊娠・出産に伴ううつ病の症状と治療 - e-ヘルスネット - 厚生労働省
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-03-001.html
産後の母親と家族のメンタルヘルス 吉田敬子、山下洋 鈴宮寛子著