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ベビー(赤ちゃん)

2023.09.08

【もっと知ってほしい、アレルギーのこと】食物アレルギーの子も、「安心できる毎日」を目指して― 子どもの未来のために奮闘するお医者さんの取り組みと、最新研究をご紹介

【もっと知ってほしい、アレルギーのこと】食物アレルギーの子も、「安心できる毎日」を目指して― 子どもの未来のために奮闘するお医者さんの取り組みと、最新研究をご紹介

【もっと知ってほしい、アレルギーのこと】食物アレルギーの子も、「安心できる毎日」を目指して― 子どもの未来のために奮闘するお医者さんの取り組みと、最新研究をご紹介

近年、アレルギーに悩む方が増え続けています。
乳幼児期に多いアレルギーは「アトピー性皮膚炎」と「食物アレルギー」であり、我が子のアレルギー対応に苦労する親御さんも少なくありません。

そういった背景の中、お子さんやご家族の負担を少しでも減らせればと、尽力しているお医者さんがいらっしゃいます。

今回は食物アレルギーの子の負担軽減のために力を注ぐお医者さまの取り組みと、最新研究結果をご紹介します。

※本記事はお医者さまの取り組みをご紹介するものです。2022年に論文発表された研究結果を紹介していますが、特定の食品・成分が食物アレルギー症状を改善させるということではありません

増えていく、変わっていく「食物アレルギー」の現状


「私たちのころは、食物アレルギーの子なんてほとんどいなかったのに…。」
子育てをしてみて、そんな驚きをもつ親御さんも多いのではないでしょうか?
今は食物アレルギーのお子さんも珍しくはないですよね。

実は、この数十年の間に、食物アレルギーのあり方は大きく変わっています。
特に注目すべきは、「患者数」と「アレルギーに悩む期間・症状の重さ」です。

●患者数


(出典:消費者庁:令和3年度食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査研究事業報告書)


日本の食物アレルギーの患者数は増加傾向にあり、日本人の1〜2%程度(乳児に限定すると約10%)は食物アレルギーであると言われています。0~2歳で発症することが多く、0歳が最多、6歳までで患者人口の約80%を占めています。

●アレルギーに悩む期間・症状の重さ


最近の食べ物の表示で「〇〇の原料を使用した製品と同じ設備で製造しています」という記載を見かけませんか?実は、食物アレルギーの患者数が増加しているだけでなく、自然に治るまでの期間が長くなる、ほんの少しの量でもアレルギー反応を起こしてしまう人が増えるなど、「罹患期間・重症度」も悪化しているのです。

重症度の例をあげると、牛乳アレルギーの患者さん全体の5%ほどは、牛乳を30㎎(0.9ml)飲むだけで、1%の方はわずか1㎎(0.03ml)程でアレルギー反応が出てしまうそうです。

食物アレルギーは、アナフィラキシーショックを起こすと命にもかかわる問題です。こんなに少しの量でもアレルギー反応を起こしてしまうとなると、「食べなければ大丈夫」では済まされませんね。患者さん本人も、そして親御さんもとてもつらい日々を送ることになります。

食物アレルギーの子のために、考えていくべきことは?

国立病院機構福岡病院 小児科 柴田 瑠美子先生:

昔は、食物アレルギーがわかれば、その食べ物を避けるという治療方針が主流でした。
現在では、医師の診断のもとで、加熱してアレルギーを起こしにくい状態にした食物を少しずつ試していき、アレルギー反応を起こさない摂取量(閾値)をあげていくという治療方法がとられることが多いです。この「閾値」を増やしていくことが、お子さんの「安心して生活できる毎日」を守ることにつながり、そして家族も含めた生活の質(QOL)をあげていくことにつながるのです。

私は小児科医として、食物アレルギーのお子さん、ご家族と長年向き合ってきました。現在では、子どもの食物アレルギーは珍しくないものになりましたが、食べたいものを自由に食べられない辛さはいつの時代も変わりません。給食もみんなと同じものが食べられず、それが心の傷になる子も多くいます。

「アレルギーだから仕方ない」とあきらめるのではなく、「アレルギーとどう向き合っていくか?」「どうしたら日常生活が少しでも楽になるか」を考えていくことは、医師として非常に大切なことだと思います。

着目したのは、「腸内環境」

そこで、柴田先生とタッグを組んだのが、腸内環境のスペシャリストである古賀泰裕先生。
これまでに、腸内の善玉菌のエサとなる「ケストース」を摂取することでアトピー性皮膚炎の症状が改善する、といった臨床研究報告を共同でされている方です。

このアレルギー症状改善実績のあるケストースを、食物アレルギー患者さんのためにどうにか役立てられないか、そんな思いで始まったのが今回の研究でした。

ケストースって?
ビフィズス菌や酪酸産生菌などの腸内の善玉菌のエサとなる、「プレバイオティクス」とよばれる食品の一種。プレバイオティクスとして有名なのはオリゴ糖ですが、「ケストース」はオリゴ糖の中でも善玉菌を増やす効果が高い成分です。オリゴ糖を摂りすぎると下痢や軟便を招くこともありますが、「ケストース」を選択的に摂取することで、これらの不快な症状が出ない量で効果的に善玉菌を増やすことができます。

毎日の「ケストースの摂取」で、閾値の平均値が上がる結果に!

柴田先生と古賀先生を含む研究グループでは、国立病院機構福岡病院小児科を受診している重度の牛乳アレルギーの患者さん・ご家族にご協力のもと、ケストースを毎日摂取するとどうなるかを、2年にわたり負荷試験を行い検討。

今回の臨床的検討の結果では、牛乳アレルギーの閾値(この量まではアレルギー反応が起こらないという量)の平均値が大きく上がったのだそうです!同時にケストースを毎日摂取することで腸内環境が改善し、アレルギー症状を引き起こす「IgE抗体」の量が長期間高値でしたが減少した例もありました。

補足:今回の乳アレルゲン食品の負荷試験では、重症の患者さんの中には、開始時に数㎎程度の閾値の例も含まれており、閾値が上がったといってもまだ誤食を防げるレベルではありません。

ケストースは、小さな子どもも取り入れやすい「プレバイオティクス」

柴田先生
今回の試験は大人数で行われたものではなく、これからのさらなる検討は必要ですが、長期にわたり乳製品の微量の摂取が困難な重症乳アレルギーの学童でも、ケストースと同時に週1~2回の焼菓子を含めた乳食品を摂取することにより、乳食品の摂取閾値をあげることができ利用できる食品を増やすことにつながりました。

ケストースは、オリゴ糖の一成分ですから、母乳や野菜などの食品にも含まれていて、小さな子どもでも安心して摂取できる食品です。そして、甘さ控えめのお砂糖のようなものを毎日少量摂るだけなので、子どもも非常に手軽で続けやすいのも重要なポイントです。

古賀先生
アトピー性皮膚炎に続き、牛乳アレルギーの症状改善効果が示唆された「ケストース」は、腸内環境の改善によって他のアレルギー疾病の改善にも役立てられる可能性があります。今後もさらなる研究が必要ですが、多くの方がアレルギーに悩む昨今、小さな子から大人まで手軽に摂取できる「ケストース」に更なる注目が集まることを期待しています。

おわりに

今回は、食物アレルギーの患者さんのために尽力されているお医者さんと、画期的な最新研究結果をご紹介しました。アレルギーに悩む方が年々増加している中、重度の患者さんの負担が少しでも減るようにと、こうした研究を進めているプロフェッショナルがいらっしゃることを、患者さんご家族だけでなく、ぜひ多くの方に知っていただければと思います。

こうした取り組みをご紹介することで、アレルギー患者さんに対する社会の理解がさらに深まることを心から願っています。

また、“腸内環境”“腸活”の重要性も知れ渡っている今、赤ちゃんから大人まで手軽に美味しく摂取できるプレバイオティクス「ケストース」が注目されつつあります。腸内環境を良好に保つことは、アレルギーの観点以外でもメリットがたくさんあります。皆さんもぜひ、手軽に始められる“腸活”を生活に取り入れてみてはいかがでしょうか?

【先生のご紹介】
柴田 瑠美子先生
医学博士。日本アレルギー学会指導医。国立病院機構福岡病院アレルギーセンター顧問。小児科非常勤医師。昭和46年九州大学医学部卒。九州大学医学部講師、国立病院機構福岡病院小児科医長を経て現職。中村学園大学栄養科学部客員教授(2013年~2018年)。早くから食物アレルギーの専門医として研究、治療に積極的に取り組む。平成2年より同病院にて食物アレルギーの親と子のための「食物アレルギー教室」を開催。「食物アレルギー教室:講談社(2015年)」。 食物アレルギーの理解を深める講義や除去食の指導などで患者の家族の不安に寄り添い、多くの食物アレルギー児の寛解、耐性化をサポート。

古賀 泰裕先生
日本プロバイオティクス学会理事長。東海大学医学部消化器内科客員教授。1978年、九州大学医学部卒業、同大学院にて医学博士取得。1991年、九州大学生体防御医学研究所助教授、1993年、東海大学医学部感染症学部門教授。2018年より現職。1998年に現在の日本プロバイオティクス学会を設立し、理事長として同学会の発展運営に努めている。現在はプロバイオティクスの研究開発に従事。監修「赤ちゃんをアレルギーにしないためにできること;主婦の友社(2023)」

引用・参考文献

Shibata R, Koga Y, Mayuko T, et al., In children with cow’s milk allergy, 1-kestose affects the gut microbiota and reaction threshold,

Pediatr Res., 2023; Mar 15, doi: 10.1038/s41390-023-02557-7.
?URL:In children with cow's milk allergy, 1-kestose affects the gut microbiota and reaction threshold | Request PDF (researchgate.net)


上記文献の日本語訳はこちら(訳:古賀泰裕先生)▼
表題:1-ケストースは牛乳アレルギー小児の腸内細菌叢に作用して食物アレルギー反応を改善する

要約:
背景;近年、腸内細菌叢の改善による食物アレルギー治療が注目されている。この中で、プロバイオティクスを用いた治療の試みは報告されているが、プレバイオティクスの食物アレルギー治療に対する有効性についての検討はほとんどなされていない。
方法;本臨床試験では、オープンラベル(投与する医師は、各被験者にケストースあるいはプラセボ「偽薬」のどちらを投与したのか知っている)プラセボ対照群比較法(ケストース「真薬」投与群の有効性を、プラセボ投与群と比較して判定する)を用いた。被験者は重症の牛乳アレルギーのため、牛乳を摂取する際は加熱した状態(たとえば牛乳を加えた原料を焼いて作られたパンやクッキー)のものを取るように指導されている。実際の臨床試験において、牛乳アレルギーを持つ被験者の中で、ケストース群はケストースを毎日、6ヶ月間摂取し、プラセボ群はケストースを摂取しなかった。アレルギー症状重症度、牛乳タンパクの摂取耐用量閾値(アレルギー症状が発生する最少量)は、加熱された牛乳あるいは牛乳含有食品を用いた食物経口負荷試験で判定された。さらに血液および便を採取して、抗原(アレルギーを起こす成分)に特異的なIgE抗体および腸内細菌叢構成を検査した。
結果;ケストース投与により牛乳タンパクに対する耐用閾値が有意に上昇し、血清中の牛乳あるいはカゼイン(牛乳の主要タンパク成分)に対するIgE抗体価が有意に低下した。さらに、ケストース投与被験者においては、腸内のFusicatenibacter(フジカテニバクター属)細菌が有意に増加し、この増加はアレルギー成分である牛乳およびカゼインに対するIgE抗体価の低下と有意な相関関係を示した。
結論;ケストースは腸内細菌叢を改善しアレルギー性IgE抗体を減少させることで、牛乳タンパクに対するアレルギー症状を改善した。

背景:
食物アレルギーは小児に多く認められる疾患のひとつである。食物アレルギーの自然経過はこの20年間変化していて、重症度および罹患期間が増大している。日本での大規模疫学調査によれば、乳児の5〜10%、幼児の5%、4.5%の学童が食物アレルギーに罹患し、そのうちの21.8%は牛乳アレルギーであった。
牛乳アレルギーの一般的治療法は、患者に牛乳タンパクに対する充分な耐性がつくまで摂取食品から牛乳を除去することである。しかし、牛乳が多くの加工食品に混入されている現状からは、牛乳摂取を完全に除くことにはしばしば困難を伴う。実際、アレルギー症状が発生しない牛乳タンパクの最大許容量は少量であることが多く、全牛乳アレルギー患者の5%では1回の牛乳タンパク摂取許容量は30mg、患者の1%では約1mgと非常に少なく、日々の様々な摂取食品からの牛乳タンパクの完全除去は困難である。一方、加水分解カゼインや牛乳含有加熱焼き菓子も牛乳アレルギーに対する経口免疫寛容導入療法における耐性導入食物として用いられている。しかし、この方法は一定の効果はあるものの、安定した耐性状態の継続は不安定である。
多くの医学的知見が腸内細菌叢の異常、すなわち“ディスビオーシス”が食物抗原に対する経口免疫寛容の成立を阻害し、食物アレルギーを発症させるとの考えを支持している。よって腸内細菌叢を改善する手段、たとえばプロバイオティクス/プレバイオティクスの使用は、この4〜5年、注目を集めるようになった。プロバイオティクスの中で、Lactobacillus rhamnosus GGは世界中で最も多く使用されているプロバイオティクス株の一つであるが、加水分解牛乳を用いた経口免疫寛容導入療法における本プロバイオティクスの併用は、牛乳アレルギー改善促進に有効であったと報告されている。さらに、複数のプロバイオティクス株混合物が、牛乳アレルギー乳児の牛乳タンパクに対する耐性獲得に有効であったとの報告もある。
動物実験でプレバイオティクスの食物アレルギーに対する有効性を示唆する報告があるが、ヒトにおいてプレバイオティクスの有効性を示した報告はほぼない。以前の研究で我々はランダム化対照比較試験法を用いて、最も分子量が小さいフラクトオリゴ糖である1-ケストース(ケストース)をアトピー性皮膚炎乳児に投与しその治療効果を検討した。ケストースを用いたのは、アトピー性皮膚炎改善に有効と考えられている腸内ビフィズス菌の活性化にケストースが優れているためである。実際、本臨床試験では、ケストース投与は便中ビフィズス菌数を増加させアトピー性皮膚炎症状を有意に軽減した。最近の複数の臨床研究報告では、アトピー性皮膚炎発症に続発する食物アレルギーでは、アトピー性皮膚炎の先行治療が、続発する食物アレルギーの改善につながることが示唆されている。この臨床知見はアトピー性皮膚炎に有効なケストースが、食物アレルギー治療にも有効であることを示唆する。そこで本臨床研究では、予備的なオープンラベル対照比較試験により、牛乳アレルギー患者の牛乳タンパク摂取耐用量増加にケストースが有効であるかを検討した。

方法:
研究方法;(Fig. 1参照)パイロットスタディー(探索研究)である本臨床試験は、オープンラベル(「要約」で説明)対照試験法により、2018年10月から2020年9月の間に実施された。計34名の被験者は国立病院機構福岡病院小児科の外来受診者の中から得られた。被験者の選択基準は、1)4〜15歳、2)食物アレルギー症状の既往があり食物経口負荷試験で重症牛乳アレルギーと診断された、3)牛乳特異的IgE抗体価が高値、4)現在、抗生物質あるいはプロバイオティクス/プレバイオティクスを継続的には服用していない。被験者あるいはその保護者からは文書による臨床試験参加の同意を得た。登録被験者(enrolled subjects, n=34)はケストースグループ(n=25)とコントロールグループ(n=9)に割り付けられた。ケストースグループは1日2g(10歳以下)あるいは4g(10歳以上)のケストースを経口摂取した。コントロールグループには試験期間中はいっさいケストースを摂取しないことを指示した。被験者は、試験期間中に牛乳タンパクを摂取する場合は、あらかじめ食物経口負荷試験で決定された許容量以下の量を、加熱された食品形態で取ることを指示された。臨床試験で使用されたケストースは純度98%以上の粉末で、物産フードサイエンス(株)から供給された。試験期間中、被験者は1〜2ヶ月ごとに受診し、ケストース摂取状況、摂取食物の内容、アレルギー症状発生の有無などに関する問診を受けた。
食物経口負荷試験;牛乳タンパク抗原に対するアレルギー反応発生閾値を調べるために食物経口負荷試験を、臨床試験開始時および開始6ヶ月後に実施した。被験者あるいはその保護者が希望した場合は、試験食物は牛乳含有パンやクッキー、あるいは熱処理したミルクを用いた。熱処理したミルクに含まれる牛乳タンパク量は33mg/mLと換算し、パン、クッキーに含まれる牛乳タンパク量は測定キットを用いて定量した。検査の際、検査用食品は少しずつ増量しながら20分間隔で投与し、あらかじめ定められた最大量に達するまで続けた。この過程で被験者に何か症状が発生した場合は検査を中断し、症状が治まるまで経過観察を行い、牛乳タンパクにたいする耐用閾値量を決定した。
血清IgE抗体価の測定;食物経口負荷試験を実施するときに採血も同時に行い、”ImmunoCap”キットを用いて血清中の牛乳特異的IgEおよびカゼイン特異的IgEの抗体価を測定した。
便検体の採取;被験者から臨床試験開始時(0 month)および6ヶ月後(6 month)に便検体を採取した。検体は採取後、液体窒素で凍結し砕片化してプラスチッーブに収納し測定までー80℃で保存した。
腸内細菌叢構成菌種の解析;以前に報告した方法で便検体よりDMAを抽出した。細菌16SrRNA遺伝子のV3-V4領域を特異的プライマーによりPCR複製を行った。得られたクローン化DNAの塩基配列を決定し、既存の細菌DNA配列データベースと照合することで細菌種を同定した。
便中短鎖脂肪酸の測定;ガスクロマトグラフィー(GC-MS)法を用いた。
統計解析;SPSS Statics 26アプリを用いた。0 monthと6 monthの比較はウィルコクソン符合付順位和検定を、同じ時点での比較はマンホイットニ検定を、相関解析はスピアマンの順位相関係数検定および変数選択重回帰分析を用いた。

結果:
被験者の背景(Table 1参照);34名の被験者が本臨床試験に登録され、そのうち4名が6 monthでの便検体採取をしなかった。よって残る30名によるPer-protocol解析(途中脱落被験者を除外して解析する方法)が行われた。試験開始時の被験者背景はTable 1にまとめた。試験開始時の調査で、アナフィラキシー反応の既往や、牛乳/カゼイン特異的IgE抗体価の高値がケストースおよびコントロール両群で認められた。すべての被験者で、牛乳以外の卵、小麦などに対するアレルギー反応も認められた。調査した各種要因の中で年齢以外では両群間に有意差を認めなかった。試験期間中における薬剤の使用、あるいは腸内細菌叢に影響を及ぼすような食習慣の変更についての、被験者からの申告はなかった。
経口食物負荷試験(Fig. 2参照);臨床試験開始時(0 month)と6ヶ月後に食物経口負荷試験により牛乳タンパク耐用量閾値を決定した。その結果、ケストース群では6ヶ月後は開始時に比べ耐用量閾値は有意に高かった(p<0.05 、Fig. 2a)。一方、コントロール群では、両時点の比較で有意差はなかった。ケストース群における閾値量増加と年齢との間には相関はなかった。
ケストース群では牛乳/カゼイン特異的IgE抗体価が6ヶ月後では開始時に比べ有意に低かった(Fig. 2b、2c)。すなわち食物アレルギー発症に関与するIgE抗体が減少したことは牛乳タンパク耐用閾値量が増加したことに関係していると予想される。一方、コントロール群ではIgE抗体価の有意な変化はなかった。ケストース群における牛乳/カゼイン特異的IgE抗体価の減少には年齢との関連はなかった。
腸内細菌叢構成;ケストース投与が示した臨床および検査所見に対する改善効果の腸内細菌叢との関連を調べるために、16SrRNA遺伝子解析による便細菌叢構成菌種の解析を行った。合計190万個のDNA断片の塩基配列を解読し分析することで、最終的に463種類の細菌種および182種類の細菌属が同定された。α多様性(ある細菌群集団を構成する細菌の種類の数)をShannon指標やChao 1指標を用いて調べた。その結果、ケストース投与により腸内細菌叢のα多様性は低下した(Fig. 3)。特にShannon指標(均等性を重視した指標)においてその低下は統計学的にも有意であった。
細菌種構成の検索において、ケストース投与前後で複数の細菌種グループで全細菌種の中の相対占有率に有意差が認められた(Table 2)。ケストース投与後に有意に増加したのは、ビフィドバクテリウム属、フジカテニバクター属、およびユウバクテリウム属であった。一方、有意に低下したのはルミノコッカス属およびロゼブリア属であった。コントロール群では、ケストース投与前後で有意差が生じた細菌属はなかった。
ケストース投与により相対占有率に有意差が生じたこれらの細菌属(Genus)に所属する細菌種(Species)についてもその変化を調べた(Table 3)。属レベルでの解析結果と同様にケストース投与により、ビフィドバクテリウムロンガム、フジカテニバクターサッカロボランス、ユウバクテリウムハリイの相対占有率は上昇し、ルミノコッカスブロミイは有意に低下した。
次に、腸内細菌種構成と食物アレルギーの臨床(牛乳タンパク耐性閾値)および検査指標(IgE抗体価)との相関をスピアマンの相関係数で解析した(Fig. 4)。その結果、属レベルでの腸内細菌種相対占有率と牛乳タンパク耐性閾値との間には有意な相関は見出せなかった(Fig. 4a)。しかし、フジカテニバクター属相対占有率と牛乳タンパク/カゼイン特異的IgE抗体価の間には有意な逆相関が認められた(Fig. 4b, 4c)。さらに変数選択重回帰分析で、フジカテニバクター属の相対占有率は血中の牛乳タンパク/カゼインIgE抗体価を決定する交絡因子であることが証明された(Table 4)。
便中短鎖脂肪酸濃度;ヒト腸内の主要な短鎖脂肪酸である酢酸、プロピオン酸、酪酸の便中濃度はケストース群あるいはコントロール群のいずれにおいても有意な変化はなかった。

考察:
本研究ではオープンラベル対照比較臨床試験により、フラクトオリゴ糖の一成分であるケストースの小児牛乳アレルギー患者に対する治療効果について予備的検討を行った。その結果ケストース投与群においては、熱処理した牛乳食品を試験食として用いた食物経口負荷試験で牛乳タンパクに対する耐性閾値量が有意に増加した。しかし、我々はホーソン効果(観察者に良い結果を見せたいと言う気持ちから生じる偽効果)あるいはプラセボ効果(偽薬であっても薬を飲んでいるから効いたような気持ちになる効果)の可能性を否定できない。なぜならば本臨床試験の食物経口負荷試験では、被験者も検査担当医も投与する試験食物が何であるかがわかっていたからである。
本試験では、ケストース投与は牛乳タンパクに対する摂取閾値量を27倍も増加させるという顕著な改善効果を発揮し、牛乳/カゼイン特異的IgE抗体価を有意に低下させた。このことはケストース投与が、食物アレルギー患者の感作アレルゲンに対して免疫寛容を誘導したことを意味する。
腸内細菌叢の解析では、ケストース投与がフジカテニバクター属の腸内細菌叢における占有率を有意に増加させた。そして、この細菌属の占有率と牛乳/カゼイン特異的IgE抗体価の間には有意な逆相関が認められた。これらの結果から、ケストース投与によるIgE抗体価の低下はフジカテニバクター属の増加により引き起こされていることが予想される。
腸内細菌叢改善を治療効果判定の指標とした複数の臨床試験は、プロバイオティクスは食物アレルギー改善に有効と報告している。しかし、プレバイオティクスを用いた同様の臨床試験の報告はない。我々の知る限りにおいて今回の臨床研究は、食物アレルギー罹患小児の食物アレルゲンに対して、プレバイオティクスを用いて経口免疫寛容を導入した最初の報告例である。
フラクトオリゴ糖については多くの研究がなされ、また本オリゴ糖は市場に広く普及しているプレバイオティクスでもある。フラクトオリゴ糖製剤は、ケストース、ニストース、フルクトフラノシルニストースの混合物である。その中で最も小さい分子量のフラクトオリゴ糖であるケストースが、フラクトオリゴ糖製剤の大部分のプレバイオティクス効果を担っている。我々のグループは、ケストースの日常的摂取が腸内の酪酸産生菌を増加させて盲腸内の酪酸濃度を上げることをラットを用いた動物実験で明らかにした。酪酸には免疫調節作用があり制御性T細胞を活性化して、アレルギー発症の誘因となるTh2細胞の過剰反応を阻止する。実際我々は、ケストースの日常的摂取が乳幼児のアトピー性皮膚炎を改善することを以前に報告している。これらの被験者では、ヒト腸内に棲息する代表的酪酸産生菌であるフェカリバクテリウムプラウスニッツィの増加が、アトピー性皮膚炎の改善に関与していた。さらに食物アレルギーにしばしば先行して発症したアトピー性皮膚炎の治療は、後発する食物アレルギーの予防あるいは治療にも必要であると提唱されている。したがって今回の臨床試験でも、アトピー性皮膚炎治療に有効なケストースが腸内細菌叢に作用して食物アレルゲンに対する経口免疫寛容を誘導したと考えられる。
小児の食物レルギー発症には多くの場合IgE抗体が関与している。牛乳特異的IgE抗体価の高値を伴う牛乳アレルギーは一般に自然治癒が困難であるが、これらのアレルゲン特異的IgE抗体価が低下すればアレルギー症状の早期の改善につながる。動物実験で、ある種のプレバイオティクスの投与がCD25+制御性T細胞を介してアレルゲン特異的IgE抗体価を低下させたとの報告がある。しかしヒトにおいても、日常的なプレバイオティクス摂取が食物アレルギー患者のアレルゲン特異的IgE抗体を低下させるかはこれまで不明であった。これに対して今回の我々の臨床研究では、血清中の牛乳/カゼイン特異的IgE抗体価がケストース投与6ヶ月後に有意に低下した。これらの知見から、ケストースは腸内細菌叢を介して制御免疫系を活性化しIgE抗体産生を抑制することが示唆された。IgE高産生などの過剰なTh2免疫反応は食物アレルギー発症につながると考えられている。本臨床試験で認められたIgE抗体の低下は、ケストース投与がアレルゲンに対する過剰なTh2反応を抑制し経口免疫寛容を誘導したことを反映していると予想される。
今回の臨床研究では、ケストース投与により腸内細菌叢に占めるフジカテニバクター属の割合が有意に増加した。この増加と抗原特異的血清IgE抗体低下は関連、すなわち両者は逆相関した。さらに本細菌属はIgE抗体価を決定する間接的要因、すなわち交絡因子であることも明らかになった。フジカテニバクター属の代表的細菌種であるF.サッカリボランスは、酪酸産生菌グループであるクロストリジウムクラスターXIVaに所属する。この細菌種は食物線維やオリゴ糖を活発に取り込んで短鎖脂肪酸を多く産生する。腸内細菌叢のF.サッカリボランス占有率は、潰瘍性大腸炎の増悪期には低下し緩解期では増加するとの報告がある。さらに本細菌種は免疫細胞からのIL-10産生を誘導する事も知られている。したがってフジカテニバクター属は腸内で酪酸などの短鎖脂肪酸産生により、牛乳アレルギーのアレルゲンに対する経口免疫寛容導入に重要な役割を果たしているかもしれない。
食物アレルギーに罹患したイタリア人小児39名の被験者を用いた臨床研究において、そのうちの19名は健常児に比べて腸内細菌叢のShannon指標が高かったと報告されている。一方、我々の研究結果ではShannon指標で判定した腸内細菌叢のα多様性は、ケストース群がコントロール群よりも有意に低かった。食物アレルギー病態生理における腸内細菌叢α多様性の意義はまだ明らかでないが、これら内外の研究報告を考察すると、ケストースによるα多様性低下は食物アレルギー改善機序に関与しているかもしれない。
本研究ではケストース投与による便中短鎖脂肪酸濃度に有意な変化は観察されなかったが、酪酸産生菌や酢酸産生能を有するビフィズス菌を増加させた。腸内での酪酸産生の大部分は盲腸と近位大腸で生じている。大腸粘膜からの短鎖脂肪酸吸収は非常に効率的なので産生量の10%以下しか便中には残らない。したがって本研究で観察された便中短鎖脂肪酸濃度は腸内で産生された短鎖脂肪酸量を正確には反映していないであろう。
最後に結論として、ケストース投与と熱処理牛乳成分は小児食物アレルギー患者の摂取耐用閾値量を上げることをここに報告する。その改善効果の機序として、腸内細菌叢に有益な効果を及ぼして免疫反応を正常化させ、食物アレルゲン特異的IgE抗体価を低下させることが予想される。また本研究は、プレバイオティクスが牛乳アレルギー患児にある程度の経口免疫寛容を誘導することを明らかにした最初のケースでもある。一方、本研究はまだ予備的な探索研究であり、今後、より多くの被験者が参加したランダム化比較試験の実施がケストースの有効性をさらに確認するために必要であろう。

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